ポリアの壺の逆向き解釈

次のパズルの、直感的な解釈を思いついたため、書き留めておく。

 

そのパズルとは、以下のものである。「ポリアの壺」の通称でよく知られる。

4.7 引きつけ合うコイン

引きつけ合う力をもたせた1ドルコインを100万枚用意して、以下のような仕方で2つの壷に投げ入れる。壷には最初コインを1枚ずつ入れておいて、残りのコインは、1枚ずつ空中に放り投げる。左の壷に$x$枚、右の壷に$y$枚コインが入っている状態のときは、コインどうしが引きつけ合う力によって、次に投げた空中のコインが左の壷に入る確率は$x/(x+y)$であり、右の壷に入る確率は$y/(x+y)$である。

さて、最終的にコインが少ないほうの壷の中身にあらかじめ価格をつけるとしたら、いくらにすべきであろうか。

ピーター・ウィンクラー『とっておきの数学パズル』2011.Q4.7より。

 

パズル本のパズルを引用してしまうとはいかかがものか、と思われるかもしれない。主従関係に配慮した正式な引用であるが、確かに、ここではその本の魅力を語ることで許してもらいたい。

ウィンクラーのパズルコレクション『とっておきの数学パズル』は、日本の本としては珍しく、まさにタイトル通りの内容が詰まっている。ここで引用したパズルも斬新で楽しいものだが、他のパズルもそうである。

嬉しいことに、とても分かりやすい日本語で読むことができる。これは著者と訳者が優れていることを示すとともに、内容が優れていることも示す。

少し数学ができる人なら、ぜひ読んでみて頂きたい。

www.nippyo.co.jp

 

本題

さて本題である。

先ほどのパズルの答えは、平均25万ドルである。私は1000ドルぐらいと予想していたため、意外であった。著者のコメントによると、熟練の数学者でも、100ドルや10ドルと答えたらしい。

さらに、この少ないほうの壺の中身の分布は、1ドル~50万ドルの間の一様分布だという。ちょっとこれは未だに信じられていない。1ドルになる確率と、25万ドルになる確率が等しいということである。

 

著者の直感的な説明として、以下のようなものがある。

999999枚のカードがあり、そのうち1枚は赤で、それ以外は黒である。これらをシャッフルする方法として、まず、赤のカードをテーブルに置き、黒のカードをそのカードの上か下に等確率で入れていく。山のカードが2枚になれば、その3つの隙間から等確率で選んでカードを入れていく。その方法で999998枚の黒のカードをすべて入れる。たとえば、赤のカードより下のカードが多くなれば、その分赤より下に入りやすくなるわけだ。

このシャッフルの方法で、最終的な赤のカードの位置が(一様に)ランダムになると考えるなら、先ほどのパズルの結果にも納得してもらえるだろう、ということである。

 

私はこの説明を読んで、すぐには納得できなかった。パズルと同じようなことが起きるなら、やはりカードの話でも、赤のカードは上の方や下の方に片寄ってしまうのではないかと。

 

逆向きの解釈

そこで私は逆向きに考えてみた。

999999枚の黒のカードがあり、1~999999の番号が付いているとし、それらがすべてがランダムに混ぜられて山になっているとする。

その山から、最後の1枚になるまで、ランダムにカードを引き抜いていくことを考えよう。もちろん、それぞれのカードが引き抜かれる確率は等しいと考える。

最後に残るカードの上に$x$枚、下に$y$枚が残っているとき、上から引き抜かれる確率と、下から引き抜かれる確率の比は、パズルと同様である。

最後の1枚まで引き抜いたら、そのカードを赤に塗ってしまおう。そこに至るまでの確率は、著者の説明した方法で山を作ったときに、最初の山の並び(赤に塗ったカードの上にいくつ、下にいくつの状態)になる確率と等しい。

それでもって、999999枚から引き抜いていったときに、最後の1枚として残る確率は、どのカードも同じである。

よって、パズルの方でも、左右の壺へ分かれるコインの量は、一様であると。

 

結果が出た後に、そこに至るまでの確率をどのように論じていいのか、はっきりとは分かっていないが、私はこの解釈で、パズルの結果に納得することができた。

 

おわりに

パズルの状況を巧妙に言い換えることで、格段に納得しやすくなるというのは、本当に面白い。これぞパズルの醍醐味であろう。

ところで、このパズルは、結果が意外という意味でパラドクスとも呼べると著者は言う。実質的に同じ構造の問題が、「ポリアの壺」という名で知られている。私は名前すら聞いたこともなかった。広く知られていないだけで、この世にはまだまだ面白い話があるらしい。